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福音のヒント

主日のミサの福音を分かち合うために

年間第7主日 (2020/2/23 マタイ5章38‐48節)  


教会暦と聖書の流れ


 山上の説教(マタイ5~7章)の朗読が続いていますが、きょうの箇所も、「幸いである」と祝福され、「地の塩、世の光」とされた人々の新しい生き方を指し示す箇所です。ここでもまた旧約の律法と対比された、キリスト者の新しい生き方が示されています。それは5章17節で「わたしが来たのは律法や預言者を廃止するためだ、と思ってはならない。廃止するためではなく、完成するためである」と言われる「律法を完成させる道」であり、20節で「あなたがたの義が律法学者やファリサイ派の人々の義にまさっていなければ、あなたがたは決して天の国に入ることができない」と言われる「義の道」なのです。


福音のヒント


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  (1) 「目には目を、歯には歯を」という言葉は、旧約聖書の中に何回か述べられています。これは「同害復讐法」と言われ、復讐を認めたというよりも、むしろ同じ害を与える以上の過剰な復讐を禁じているのだと言われています。イエスはこれを否定し、「悪人に手向かってはならない」と言い、さらに「右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい」と言われます。40節の「下着」と「上着」は、現代の上着・下着とは違います。ここでいう「下着」は普通の日常生活で身に着ける一枚の布でできた服のことで、「上着」は旅をしたり、野宿をしたりするときに使う外套のようなものです。ルカの並行箇所では順序が入れ替わっていて、「上着を奪い取る者には、下着をも拒んではならない」(ルカ6章29節)となっています。ルカは追いはぎに襲われたような場面を考えていますが、マタイのほうは訴訟の場面が考えられているのでしょう。上着は下着よりも高価なものです。「ミリオン」はラテン語で「1,000」を意味する言葉です。ローマの距離の単位で、2歩(右足と左足1歩ずつ)を1単位として、その1,000倍、すなわち2,000歩の距離です。「1ミリオン」は約1,500メートルにあたります。「頬を打たれるのを耐えなさい。下着を奪われても我慢しなさい。強いられるままに1ミリオン行きなさい」という以上の積極的な何かがここにはあります。

  (2) 強いられて2,000歩歩くという状況は想像しにくいですが、自分の意思ではどうすることもできない2,000歩なのですから、そこにはまったく自由がありません。しかし、2,001歩目からは自分がまったく自由に歩んでいく歩みです。それは相手への愛のために進んで歩くということになるではないでしょうか。
 先週の福音のヒントで、イエスが山上の説教の中で示した律法を完成する道は「愛によって律法を完成する道」であり、同時に「神によって完成する道」でもある、と述べました。左の頬をも向け、上着をも取らせ、2ミリオン一緒に歩いていく、という姿勢には、この「愛によって律法を完成する道」が示されていると言えるでしょう。「掟だから仕方なくそれを守る」とか、「掟を守りさえすればよい」というのではなく、まったく自由に愛によって生きることが父である神の求める人の生き方なのです。この生き方はイエスの十字架に向かう歩みと重なっています。
 
  (3) 43節の「隣人を愛せ」という律法は、レビ記19章18節にありますが、「敵を憎め」という言葉は旧約聖書には見当たりません。ただし、「隣人」という言葉の本来の意味は「隣の人」であって、すべての人を指してはいません。きょうのミサの第一朗読にはこうあります。「心の中で兄弟を憎んではならない。同胞を率直に戒めなさい。そうすれば彼の罪を負うことはない。復讐してはならない。民の人々に恨みを抱いてはならない。自分自身を愛するように隣人を愛しなさい」(レビ記19章17,18節)。これを文字通り受け取って、「兄弟、同胞、民の人々、隣人」だけを愛すれば律法の要求を満たしたことになるのであり、それ以外の人は憎んでもかまわない、という理解があったのでしょう。イエスの受け取り方はまったく違いました。それはルカ福音書10章の「善いサマリア人のたとえ話」にはっきりと示されています。相手が誰であれ、苦しむ人に手を差し伸べること、これが隣人愛の掟の意味であり、神の望みなのです。なお、聖書の言う「愛」はギリシア語で「アガペーagape」で、単なる好き嫌いの感情を表す言葉ではありません。ラテン語では「カリタスcaritas」と訳され、さらにキリシタン時代の辞書には「ゴタイセツ」と訳されています。「愛」とはそのものをそのものとして大切にすることなのです。

  (4) 人間は多くの場合、神とは正しいことをすれば良い報いを与え、悪いことをすれば罰を与える方だと考えます。聖書の中にもこのような神の姿は多くの箇所で語られています。正しく生きることを教えるためには、こういう神の姿も必要なのです。しかし、イエスが語る神の姿の根本は違いました。「父は悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨を降らせてくださる」(45節)。この言葉ほど明確に父である神の特徴を語る言葉は、福音書の中に他にありません。この無条件の神の愛が人間を根本において支えるものなのです。
 なお、ここに「徴税人」「異邦人」という言葉が出てきます。差別発言のように聞こえるかもしれませんが、ここでイエスは、「あなたがたが軽蔑している徴税人、異邦人でさえ」というような言い方で、ユダヤ人である聴衆の心を揺さぶろうとしているのでしょう。

  (5) 人間が自分の力で敵を愛することができるというのではありません。神の無限の愛がわたしたちに注がれ、わたしたちがそれを受け取ったときに、わたしたちは神と同じように愛するものに変えられていくのです。ここに「神による律法の完成の道」が示されています。「完全な者になりなさい」という言葉にも戸惑うかもしれませんが、平行箇所のルカ6章36節では「あなたがたの父が憐(あわ)れみ深いように、あなたがたも憐れみ深い者となりなさい」とあります。レビ記19章2節には、「あなたたちは聖なる者となりなさい。あなたたちの神、主であるわたしは聖なる者(だから)である」という言葉もあります。神がこういう方だから、その神に出会ったら、わたしたちも神に似たものに変えられる。これもまた「神による完成」と言ったらよいのではないでしょうか。




ダウンロードできます
「福音のヒント(PDF)」
 ※集い用に、A4サイズ2ページで印刷できます。


聖書朗読箇所

第一朗読 レビ19・1-2、17-18


 1主はモーセに仰せになった。
 2イスラエルの人々の共同体全体に告げてこう言いなさい。
 あなたたちは聖なる者となりなさい。
 あなたたちの神、主である私は聖なる者である。
 17心の中で兄弟を憎んではならない。同胞を率直に戒めなさい。そうすれば彼の罪を負うことはない。18復讐してはならない。民の人々に恨みを抱いてはならない。自分自身を愛するように隣人を愛しなさい。わたしは主である。


第二朗読 一コリント3・16-23


 16〔皆さん、〕あなたがたは、自分が神の神殿であり、神の霊が自分たちの内に住んでいることを知らないのですか。17神の神殿を壊す者がいれば、神はその人を滅ぼされるでしょう。神の神殿は聖なるものだからです。あなたがたはその神殿なのです。
18だれも自分を欺いてはなりません。もし、あなたがたのだれかが、自分はこの世で知恵のある者だと考えているなら、本当に知恵のある者となるために愚かな者になりなさい。19この世の知恵は、神の前では愚かなものだからです。
 「神は、知恵のある者たちを、その悪賢さによって捕らえられる」
と書いてあり、20また、
 「主は知っておられる、知恵のある者たちの論議がむなしいことを」
とも書いてあります。
21ですから、だれも人間を誇ってはなりません。すべては、あなたがたのものです。22パウロもアポロもケファも、世界も生も死も、今起こっていることも将来起こることも。一切はあなたがたのもの、23あなたがたはキリストのもの、キリストは神のものなのです。


福音朗読 マタイ5・38-48


〔そのとき、イエスは弟子たちに言われた。〕38「あなたがたも聞いているとおり、『目には目を、歯には歯を』と命じられている。39しかし、わたしは言っておく。悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい。40あなたを訴えて下着を取ろうとする者には、上着をも取らせなさい。41だれかが、一ミリオン行くように強いるなら、一緒に二ミリオン行きなさい。42求める者には与えなさい。あなたから借りようとする者に、背を向けてはならない。」
 43「あなたがたも聞いているとおり、『隣人を愛し、敵を憎め』と命じられている。44しかし、わたしは言っておく。敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい。45あなたがたの天の父の子となるためである。父は悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨を降らせてくださるからである。46自分を愛してくれる人を愛したところで、あなたがたにどんな報いがあろうか。徴税人でも、同じことをしているではないか。47自分の兄弟にだけ挨拶したところで、どんな優れたことをしたことになろうか。異邦人でさえ、同じことをしているではないか。48だから、あなたがたの天の父が完全であられるように、あなたがたも完全な者となりなさい。」


Posted on 2020/02/14 Fri. 08:30 [edit]

category: 2020年(主日A年)

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