福音のヒント
主日のミサの福音を分かち合うために
年間第27主日 (2020/10/4 マタイ21章33-43節) 
教会暦と聖書の流れ
先週の「二人の息子」のたとえに続き、イエスは神殿の境内で、祭司長や民の長老といった当時のユダヤ人の指導者たちに向けて、この「ぶどう園と農夫」のたとえを語っています。ぶどう園で働いていた農夫たちが、収穫を受け取りに来る主人の僕(しもべ)にひどいことをし、主人の息子を殺してしまう、というこのたとえ話は、迫り来るイエスの受難を予感させるものだとも言えるでしょう。
福音のヒント
(1) このたとえ話はマルコ12章1-11節、ルカ20章9-18節にもありますが、細部は少しずつ異なっています。マルコやルカと比べてみると、マタイの特徴がいくつかあります。マルコ・ルカでは主人は3人の僕(しもべ)を3回に分けて送っていますが、マタイでは複数の僕たちが2回に分けて送られています。マタイは旧約の預言者たちを前期(ヨシュア記〜列王記上下)と後期(イザヤ書以下)に二分しているのではないかとも考えられます。また、最後に送られる息子について、マルコやルカでは「愛する息子」という特別に神の子イエスを思わせる言葉が使われていますが、マタイはただ「わたしの息子」と言います。もちろんマタイでもこの「息子」はイエスを表し、それが当然過ぎるのであえて強調しなかっただけかもしれません。なお、どの福音書でもこの息子が「ぶどう園の外」で殺されているのは、イエスが当時エルサレムの城壁の外にあったゴルゴタの丘で処刑されたことを反映しているようです(ヘブライ13章12節参照)。
43節の「だから、言っておくが、神の国はあなたたちから取り上げられ、それにふさわしい実を結ぶ民族に与えられる」はマタイだけが伝える言葉で、明らかに「あなたたち」はユダヤ民族を、「ふさわしい実を結ぶ民族」は異邦人を指しています。しかし、これは福音書の文脈には合いません。福音書ではイエスが批判しているのはユダヤの指導者たちだからです。マタイは伝承に手を加えて、新しい意味を見いだしているのだと言わざるをえないでしょう。
(2) 42節の旧約聖書の引用は、詩編118編22-23節からのものです。マルコ福音書では、イエスを拒否したユダヤの指導者たちに代わり、貧しい民衆が神の国を継ぐようになった、ということを表しているように読めます。しかし、この詩編の句は、新約聖書の他の箇所で復活したイエスに当てはめられています(使徒言行録4章11節、Ⅰペトロ2章7節参照)。初代教会の中で、イエスこそ「人に捨てられ、神に選ばれた石」と考えられたのは当然でしょう。マタイもここでイエスの死と復活を考えているようです。
なお、文脈を抜きにしてこの詩編の言葉を味わうこともできるでしょう。「人に捨てられ、神に選ばれる」ということはわたしたちの体験の中にもあることではないでしょうか?
(3) 実は、きょうの箇所に続いて44節には「この石の上に落ちる者は打ち砕かれ、この石がだれかの上に落ちれば、その人は押しつぶされてしまう」という言葉があります。写本によってはこの言葉のないものも多いので、本来マタイにはなく、ルカ20章18節から転用された可能性もあります。とにかく、これは終末における裁きを表す言葉でしょう。
以上すべてのことから、マタイは(44節も含めて)、このたとえ話の中に「救いの歴史」全体を見ていると考えることができます。神は旧約時代に預言者たちを遣わしたが、イスラエルの民は彼らを受け入れなかった(34-36節)。最後に神はご自分の子を遣わしたが、このイエスも迫害され、殺された(37-39節)。しかし、神はイエスを復活させ、救い主として立てられた(42節)。そして神の救いはユダヤ人ではなく異邦人に与えられるようになった(43節)。イエスは最後にすべての人を裁くために来られる(44節)。これがマタイの見ている「救いの歴史」の内容だと言えるでしょう。
(4) 冒頭33節の「ある家の主人がぶどう園を作り、垣を巡らし、その中に搾り場を掘り、見張りのやぐらを立て」は、イザヤ5章(この日のミサの第一朗読)を思い起こさせます。
「1 わたしは歌おう、わたしの愛する者のために/そのぶどう畑の愛の歌を。わたしの愛する者は、肥沃な丘に/ぶどう畑を持っていた。2 よく耕して石を除き、良いぶどうを植えた。その真ん中に見張りの塔を立て、酒(さか)ぶねを掘り/良いぶどうが実るのを待った。しかし、実ったのは酸っぱいぶどうであった。3 さあ、エルサレムに住む人、ユダの人よ/わたしとわたしのぶどう畑の間を裁いてみよ。4 わたしがぶどう畑のためになすべきことで/何か、しなかったことがまだあるというのか・・・」
この言葉は、主人(神)がすべてを配慮し、はじめから整えてくださっていたのだ、ということを印象付けています。
(5) それなのに、なぜ農夫たちはこれほど残虐な行為に走ってしまったのでしょうか。彼らは主人がずっと不在だったことから、いつの間にか、主人から与えられたものを、自分の力で得たもののように思い込み、主人からゆだねられ、管理をまかされたものを、自分の所有物だと勘違いしてしまったのではないでしょうか。そして、「自分のものに指一本触れさせてなるものか」と感じるようになり、収穫の分け前を受け取りに来る主人の僕や息子のことを、自分たちの物を奪いに来る泥棒としか思えなくなっていったのかもしれません。イエスが戦ったのは、人々のこのような考えに対してでした。そして、この人々の姿は、実際にイエスを死に追いやった人々の姿と重なります。
それはわたしたちにとっても他人事ではないでしょう。わたしたちが「神から貸し与えられたもの」「管理をゆだねられたもの」とは何でしょうか。地球の資源や環境? 自分のお金や持ち物? 力や才能? 地位や立場、さまざまな特権? それらは皆、神がわたしたちにゆだねたものなのではないでしょうか。それをわたしたち人間は、いつの間にか、自分勝手に使ってよいものと思い込んでしまっていることがあるのではないでしょうか。
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第一朗読 イザヤ5・1-7
1わたしは歌おう、わたしの愛する者のために、そのぶどう畑の愛の歌を。
わたしの愛する者は、肥沃な丘に、ぶどう畑を持っていた。
2よく耕して石を除き、良いぶどうを植えた。
その真ん中に見張りの塔を立て、酒ぶねを掘り
良いぶどうが実るのを待った。
しかし、実ったのは酸っぱいぶどうであった。
3さあ、エルサレムに住む人、ユダの人よ
わたしとわたしのぶどう畑の間を裁いてみよ。
4わたしがぶどう畑のためになすべきことで
何か、しなかったことがまだあるというのか。
わたしは良いぶどうが実るのを待ったのに
なぜ、酸っぱいぶどうが実ったのか。
5さあ、お前たちに告げよう、わたしがこのぶどう畑をどうするか。
囲いを取り払い、焼かれるにまかせ/石垣を崩し、踏み荒らされるにまかせ
6わたしはこれを見捨てる。
枝は刈り込まれず、耕されることもなく
茨やおどろが生い茂るであろう。
雨を降らせるな、とわたしは雲に命じる。
7イスラエルの家は万軍の主のぶどう畑
主が楽しんで植えられたのはユダの人々。
主は裁き(ミシュパト)を待っておられたのに、見よ、流血(ミスパハ)。
正義(ツェダカ)を待っておられたのに、見よ、叫喚(ツェアカ)。
第二朗読 フィリピ4・6-9
6〔皆さん、〕どんなことでも、思い煩うのはやめなさい。何事につけ、感謝を込めて祈りと願いをささげ、求めているものを神に打ち明けなさい。7そうすれば、あらゆる人知を超える神の平和が、あなたがたの心と考えとをキリスト・イエスによって守るでしょう。
8終わりに、兄弟たち、すべて真実なこと、すべて気高いこと、すべて正しいこと、すべて清いこと、すべて愛すべきこと、すべて名誉なことを、また、徳や称賛に値することがあれば、それを心に留めなさい。9わたしから学んだこと、受けたこと、わたしについて聞いたこと、見たことを実行しなさい。そうすれば、平和の神はあなたがたと共におられます。
福音朗読 マタイ21・33-43
〔そのとき、イエスは祭司長や民の長老たちに言われた。〕33「もう一つのたとえを聞きなさい。ある家の主人がぶどう園を作り、垣を巡らし、その中に搾り場を掘り、見張りのやぐらを立て、これを農夫たちに貸して旅に出た。34さて、収穫の時が近づいたとき、収穫を受け取るために、僕たちを農夫たちのところへ送った。35だが、農夫たちはこの僕たちを捕まえ、一人を袋だたきにし、一人を殺し、一人を石で打ち殺した。36また、他の僕たちを前よりも多く送ったが、農夫たちは同じ目に遭わせた。37そこで最後に、『わたしの息子なら敬ってくれるだろう』と言って、主人は自分の息子を送った。38農夫たちは、その息子を見て話し合った。『これは跡取りだ。さあ、殺して、彼の相続財産を我々のものにしよう。』39そして、息子を捕まえ、ぶどう園の外にほうり出して殺してしまった。40さて、ぶどう園の主人が帰って来たら、この農夫たちをどうするだろうか。」41彼らは言った。「その悪人どもをひどい目に遭わせて殺し、ぶどう園は、季節ごとに収穫を納めるほかの農夫たちに貸すにちがいない。」42イエスは言われた。
「聖書にこう書いてあるのを、まだ読んだことがないのか。
『家を建てる者の捨てた石、これが隅の親石となった。
これは、主がなさったことで、わたしたちの目には不思議に見える。』
43だから、言っておくが、神の国はあなたたちから取り上げられ、それにふさわしい実を結ぶ民族に与えられる。
Posted on 2020/09/25 Fri. 08:30 [edit]
category: 2020年(主日A年)
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