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福音のヒント

主日のミサの福音を分かち合うために

年間第16主日 (2021/7/18 マルコ6章30-34節)  


教会暦と聖書の流れ


 イエスが12人の弟子を派遣した先週の箇所の結びには、「十二人は出かけて行って、悔い改めさせるために宣教した。そして、多くの悪霊を追い出し、油を塗って多くの病人をいやした」(マルコ6章12-13節)とありました。続く14-29節には、弟子たちがイエスとともにいなかった時間を埋めるかのように、洗礼者ヨハネの殉教の物語が伝えられています。ですから、きょうの箇所は内容的には13節から続いているのです。
 この後、5つのパンと2匹の魚を大群衆に分け与える話になっていきますが、実は、来週の福音は同じ話をヨハネ福音書から読むことになり、ヨハネ6章の朗読が5週間続きます。年間主日のマルコ福音書の朗読が再開されるのは、年間第22主日(マルコ7章)からです。


福音のヒント


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  (1) 30節の「使徒」という言葉は、マルコ福音書ではすでに3章で使われていました。「そこで、十二人を任命し、使徒と名付けられた。彼らを自分のそばに置くため、また、派遣して宣教させ、悪霊を追い出す権能を持たせるためであった」(3章14-15節)。「使徒」は、ギリシア語では「アポストロスapostolos」で、「アポステッローapostello(遣わす、派遣する)」という動詞から来ています。意味は「遣わされた者」です。遣わされた者の使命は「神の国を宣べ伝え、悪霊を追い出す」ことですが、これはイエスがしてきたことと同じことだと言えます。「使徒」はイエスの近くにいた12人の弟子、初代教会では、復活したイエスに出会い、イエスから派遣された特別な人を指す言葉ですが、福音書を読むときは、いつもわたしたち自身が「遣わされた者」であることを忘れないようにしましょう。2000年前のガリラヤとユダヤでイエスがしていたことを、今のわたしたちが自分の置かれた場でなんとか行なっていこうとするならば、わたしたちも「使徒」だと言えるのです。

  (2) イエスは群衆の「飼い主のいない羊のような有様」(34節)を見ます。羊は弱い動物なので、群れを離れると滅んでしまいます。「飼い主=羊飼い=牧者」の役割は、羊の群れを一つにまとめ、野獣から守り、草のあるところに導くことでした。右上の写真は、イスラエル占領下にあるゴラン高原(ガリラヤの北西にあたる)で見かけた羊と羊飼いです。この羊飼いはドゥルーズ人というアラブ系の人のようでした。イスラエル人の先祖も羊飼いでしたので、旧約聖書には「飼い主のいない羊」のイメージがたびたび現れます。
 一番印象的なのはエゼキエル34章でしょう。エゼキエルは、人々を守らず、かえって人々から奪い取るだけのイスラエルの牧者たち(=指導者たち)を厳しく批判してこう言います。
「3 お前たちは乳(ちち)を飲み、羊毛を身にまとい、肥えた動物を屠(ほふ)るが、群れを養おうとはしない。4 お前たちは弱いものを強めず、病めるものをいやさず、傷ついたものを包んでやらなかった。また、追われたものを連れ戻さず、失われたものを探し求めず、かえって力ずくで、苛酷に群れを支配した」
 そして民の姿を次のように表現しています。
 「5 彼らは飼う者がいないので散らされ、あらゆる野の獣(けもの)の餌食となり、ちりぢりになった。6 わたしの群れは、すべての山、すべての高い丘の上で迷う。また、わたしの群れは地の全面に散らされ、だれひとり、探す者もなく、尋ね求める者もない。7 それゆえ、牧者たちよ。主の言葉を聞け。8 わたしは生きている、と主なる神は言われる。まことに、わたしの群れは略奪にさらされ、わたしの群れは牧者がいない
 そして、神ご自身が「わたしは自ら自分の群れを探し出し、彼らの世話をする」(11節)、また「わたしは彼らのために一人の牧者を起こし、彼らを牧(ぼく)させる」(23節)と約束されます。イエスはこの牧者として人々に目を注いでいます。

  (3) 34節の「深く憐れみ」は、ギリシア語では、「スプランクニゾマイsplanknizomai」という言葉です。この言葉は、新約聖書の中で12回使われていて、そのうちマタイ福音書に5回、マルコ福音書に4回(この箇所のほか、1章41節、8章2節、9章22節)、ルカ福音書に3回使われています。この言葉については他の箇所でも説明しました(C年年間第15主日の「福音のヒント」など)が、「スプランクノンsplanknon(はらわた)」という名詞に動詞の語尾をつけたもので、「はらわたする」と訳した人もいます。「目の前の人の苦しみを見たときに、こちらのはらわたがゆさぶられる」ことを表します。相手の痛みをわがことのように感じてしまう深い共感(コンパッションcompassion)を表す言葉なのです。イエスの愛の行いはいつもここから来ていると言ってもよいのでしょう。
 きょうの箇所で、この深い共感からイエスがしたことは「教え始められた」ということでした。マルコはいつものように教えの内容を伝えていません。もちろんそれは「神の国=神が王となること」についてのメッセージです。「王」と「羊飼い」のイメージはつながっています。この箇所のイエスの教えは、「野の獣の餌食となり、ちりぢりになった」(エゼキエル34章5節)羊たちを一つの集め、力づける牧者としての言葉だと言えるでしょう。わたしたちもそのようなイエスの言葉を聞くことがあるでしょうか。

  (4) 現代社会に生きているわたしたちの多くはたぶん疲れています。31節でイエスは弟子たちに「しばらく休むがよい」と言われましたが、わたしたちもこの言葉を切実に必要としているかもしれません。
 ただし、この場面の弟子たちは簡単には休めなかったようです。群集が押し寄せてきたからです。きょうの箇所の後の5つのパンと2匹の魚の話では、弟子たちは「あなたがたが彼らに食べ物を与えなさい」(37節)と命じられ、大群衆にパンを配るのを手伝わされています。結局のところ、休むことはできなかったのでしょうか。
 イエスが「教え」「パンを分け与える」。これは「ことばの典礼」と「感謝の典礼」からなる「ミサ」そのものと言えるかもしれません。いろいろな休み方がありますが、本当の休みはイエスのもとにいて、イエスとともに時を過ごし、イエスの言葉を聞き、イエスの食卓にあずかること。そう感じることができたらどんなに素晴らしいことでしょう!




ダウンロードできます
「福音のヒント(PDF)」
※集い用に、A4サイズ2ページで印刷できます。


聖書朗読箇所

第一朗読 エレミヤ23・1-6


 1「災いだ、わたしの牧場の羊の群れを滅ぼし散らす牧者たちは」と主は言われる。2それゆえ、イスラエルの神、主はわたしの民を牧する牧者たちについて、こう言われる。
 「あなたたちは、わたしの羊の群れを散らし、追い払うばかりで、顧みることをしなかった。わたしはあなたたちの悪い行いを罰する」と主は言われる。
 3「このわたしが、群れの残った羊を、追いやったあらゆる国々から集め、もとの牧場に帰らせる。群れは子を産み、数を増やす。4彼らを牧する牧者をわたしは立てる。群れはもはや恐れることも、おびえることもなく、また迷い出ることもない」と主は言われる。

 5見よ、このような日が来る、と主は言われる。
 わたしはダビデのために正しい若枝を起こす。
 王は治め、栄え
 この国に正義と恵みの業を行う。
 6彼の代にユダは救われ
 イスラエルは安らかに住む。
 彼の名は、「主は我らの救い」と呼ばれる。


第二朗読 エフェソ2・13-18


 13〔皆さん、〕あなたがたは、以前は遠く離れていたが、今や、キリスト・イエスにおいて、キリストの血によって近い者となったのです。
 14実に、キリストはわたしたちの平和であります。二つのものを一つにし、御自分の肉において敵意という隔ての壁を取り壊し、15規則と戒律ずくめの律法を廃棄されました。こうしてキリストは、双方を御自分において一人の新しい人に造り上げて平和を実現し、16十字架を通して、両者を一つの体として神と和解させ、十字架によって敵意を滅ぼされました。17キリストはおいでになり、遠く離れているあなたがたにも、また、近くにいる人々にも、平和の福音を告げ知らせられました。18それで、このキリストによってわたしたち両方の者が一つの霊に結ばれて、御父に近づくことができるのです。


福音朗読 マルコ6・30-34


 30〔そのとき、〕使徒たちはイエスのところに集まって来て、自分たちが行ったことや教えたことを残らず報告した。31イエスは、「さあ、あなたがただけで人里離れた所へ行って、しばらく休むがよい」と言われた。出入りする人が多くて、食事をする暇もなかったからである。32そこで、一同は舟に乗って、自分たちだけで人里離れた所へ行った。33ところが、多くの人々は彼らが出かけて行くのを見て、それと気づき、すべての町からそこへ一斉に駆けつけ、彼らより先に着いた。34イエスは舟から上がり、大勢の群衆を見て、飼い主のいない羊のような有様を深く憐れみ、いろいろと教え始められた。

Posted on 2021/07/09 Fri. 08:30 [edit]

category: 2021年(主日B年)

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