福音のヒント
主日のミサの福音を分かち合うために
年間第4主日 (2022/1/30 ルカ4章21-30節) 
教会暦と聖書の流れ
ルカ福音書ではイエスの活動はまだ始まったばかりです。先週の福音(ルカ1章1-4節、4章14-21節)は、イエスがナザレの会堂でイザヤ書の巻物を読み、「この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した」と宣言したところで結ばれていました。その結びの部分から始まるのがきょうの箇所です。なお、今回の写真は告知教会から見た現代のナザレの町です。
福音のヒント
(1) 多くの人はこの話を読んで、話の展開に少し無理があるように感じるのではないでしょうか。22節の「皆はイエスをほめ、その口から出る恵み深い言葉に驚いて」という箇所と、28-29節の「会堂内の人々は皆憤慨し、総立ちになって、イエスを町の外へ追い出し、町が建っている山の崖まで連れて行き、突き落とそうとした」の間には、確かに大きなギャップがあります。ナザレでのただ一回の出来事と見るには無理があると考えて、ナザレでのイエスの活動を伝えるいくつかの伝承が組み合わされているという見方もあります(確かにイエスはガリラヤでの活動中、何度かナザレに行ったことがあったでしょう)。とにかくルカはここで、ナザレでのある一日の出来事というよりも、イエスのこれからの活動の全体像を表そうとしているようです。
(2) 22節の「この人はヨセフの子ではないか」という言葉は、人々のイエスに対する好意的な反応を表すものでしょうか。「ヨセフの子でありながら、こんなに素晴らしいことを語っている!」というような・・・。だとすると、この後、イエスのほうからケンカを吹っかけるような言葉が続くのは、不自然に感じられるかもしれません。
むしろ、これは非難めいた言葉でしょうか。つまり、「ヨセフの子にすぎないのに、こんな大胆なことを語るのはおかしい」という意味です。マルコ6章2-3節では、故郷での話の中にこういう言葉があります。「安息日になったので、イエスは会堂で教え始められた。多くの人々はそれを聞いて、驚いて言った。『この人は、このようなことをどこから得たのだろう。この人が授かった知恵と、その手で行われるこのような奇跡はいったい何か。この人は、大工ではないか。マリアの息子で、ヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄弟ではないか。姉妹たちは、ここで我々と一緒に住んでいるではないか。』このように、人々はイエスにつまずいた」。故郷の人々は、人間的なレベルでしかイエスを見ようとしないので、イエスを受け入れられなかった、ということになるでしょう。ルカ福音書の「ヨセフの子」も同様に考えてよいのではないでしょうか。
なお、22節で「ほめ」と訳された言葉は「弾劾し」というまったく正反対の意味にもとれる言葉です。こうとったほうが、後の展開には合うかもしれませんが、ここまでの展開からすれば「皆がイエスをほめ」と受け取るほうが自然でしょう。
(3) エリヤとエリシャはともに紀元前9世紀、北イスラエル王国で活動した預言者です。それぞれの物語は、列王記上17章、列王記下5章に伝えられている有名な話です。「シドン」「サレプタ」はイスラエルの北方、地中海に面した位置にあります。「シリア」はイスラエルの北にある国ですが、その国のアラム人の王の軍司令官がナアマンでした。ともに異邦人に神の救いがもたらされた話です。
預言者の活動は、狭い民族的な利害に基づくものではなく、神の大きな救いの意思に基づくものでした。イエスもまたそのような預言者として活動しているのです。
(4) 問題はナザレの人々の狭さでした。彼らは同郷のイエスに期待しますが、それは地縁血縁による内輪の世界に利益をもたらしてくれることへの期待だったようです。そんな彼らにとっては同じガリラヤ地方のカファルナウムでさえ「外の世界」になるのです。この姿勢には、後になってイエスを十字架に追いやっていくユダヤ人指導者たちと共通するものがあります。ルカ20章でぶどう園の農夫のたとえ話が語られています。主人からぶどう園を借りていた農夫たちが、収穫を受け取りに来る主人の「愛する息子」を殺害してしまうというたとえ話です。これに対する人々の反応をルカはこう伝えています。「そのとき、律法学者たちや祭司長たちは、イエスが自分たちに当てつけてこのたとえを話されたと気づいたので、イエスに手を下そうとしたが、民衆を恐れた」(20章19節)。つまり、ユダヤ人指導層は自分たちの特権的な立場を脅かす存在としてイエスを抹殺することになるわけです。このような狭い意識がわたしたちの心にもないとは言えないでしょう。
(5) 「会堂内の人々は皆憤慨し、総立ちになって、イエスを町の外へ追い出し、町が建っている山の崖まで連れて行き、突き落とそうとした」というのは極端すぎる反応でしょうか。もちろん大きな期待があったからこそ、その期待を裏切られたときにそれが憎しみに変わるということはあるかもしれません。しかし、それだけでなく、将来起こるイエスの受難と十字架の死を予告するような出来事として、ルカはこのことを伝えているようです。この話は「イエスは人々の間を通り抜けて立ち去られた」(30節)と結ばれています。これはもちろん、まだ十字架の「時」(4章13節参照)ではないからですが、同時にイエスが最終的に「天に立ち去られた」ということを暗示しているようでもあります。
先週と今週のナザレでの出来事の中に、「貧しい人に福音を告げ知らせる」(ルカ4章18節)イエスの姿と、それを受け入れることのできなかった人々の姿がはっきりと表れています。それは福音書の物語全体の縮図とも言えるでしょう。今のわたしたちも、このイエスの福音に心を開けるかどうかが問われているのです。
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第一朗読 エレミヤ1・4-5、17-19
〔ヨシヤ王の時代に〕
4主の言葉がわたしに臨んだ。
5「わたしはあなたを母の胎内に造る前から
あなたを知っていた。
母の胎から生まれる前に
わたしはあなたを聖別し
諸国民の預言者として立てた。」
17あなたは腰に帯を締め
立って、彼らに語れ
わたしが命じることをすべて。
彼らの前におののくな
わたし自身があなたを
彼らの前でおののかせることがないように。
18わたしは今日、あなたをこの国全土に向けて
堅固な町とし、鉄の柱、青銅の城壁として
ユダの王やその高官たち
その祭司や国の民に立ち向かわせる。
19彼らはあなたに戦いを挑むが
勝つことはできない。
わたしがあなたと共にいて、救い出す。」
第二朗読 一コリント12・31-13・13
12・31〔皆さん、〕もっと大きな賜物を受けるよう熱心に努めなさい。
そこで、わたしはあなたがたに最高の道を教えます。
13・1たとえ、人々の異言、天使たちの異言を語ろうとも、愛がなければ、わたしは騒がしいどら、やかましいシンバル。2たとえ、預言する賜物を持ち、あらゆる神秘とあらゆる知識に通じていようとも、たとえ、山を動かすほどの完全な信仰を持っていようとも、愛がなければ、無に等しい。3全財産を貧しい人々のために使い尽くそうとも、誇ろうとしてわが身を死に引き渡そうとも、愛がなければ、わたしに何の益もない。
4愛は忍耐強い。愛は情け深い。ねたまない。愛は自慢せず、高ぶらない。5礼を失せず、自分の利益を求めず、いらだたず、恨みを抱かない。6不義を喜ばず、真実を喜ぶ。7すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてに耐える。
8愛は決して滅びない。預言は廃れ、異言はやみ、知識は廃れよう、9わたしたちの知識は一部分、預言も一部分だから。10完全なものが来たときには、部分的なものは廃れよう。11幼子だったとき、わたしは幼子のように話し、幼子のように思い、幼子のように考えていた。成人した今、幼子のことを棄てた。12わたしたちは、今は、鏡におぼろに映ったものを見ている。だがそのときには、顔と顔とを合わせて見ることになる。わたしは、今は一部しか知らなくとも、そのときには、はっきり知られているようにはっきり知ることになる。13それゆえ、信仰と、希望と、愛、この三つは、いつまでも残る。その中で最も大いなるものは、愛である。
福音朗読 ルカ4・21-30
〔そのとき、ナザレの会堂で預言者イザヤの書を読まれた〕21イエスは、「この聖書の言葉は、今日、あなたがたが耳にしたとき、実現した」と話し始められた。22皆はイエスをほめ、その口から出る恵み深い言葉に驚いて言った。「この人はヨセフの子ではないか。」23イエスは言われた。「きっと、あなたがたは、『医者よ、自分自身を治せ』ということわざを引いて、『カファルナウムでいろいろなことをしたと聞いたが、郷里のここでもしてくれ』と言うにちがいない。」24そして、言われた。「はっきり言っておく。預言者は、自分の故郷では歓迎されないものだ。25確かに言っておく。エリヤの時代に三年六か月の間、雨が降らず、その地方一帯に大飢饉が起こったとき、イスラエルには多くのやもめがいたが、26エリヤはその中のだれのもとにも遣わされないで、シドン地方のサレプタのやもめのもとにだけ遣わされた。27また、預言者エリシャの時代に、イスラエルには重い皮膚病を患っている人が多くいたが、シリア人ナアマンのほかはだれも清くされなかった。」28これを聞いた会堂内の人々は皆憤慨し、29総立ちになって、イエスを町の外へ追い出し、町が建っている山の崖まで連れて行き、突き落とそうとした。30しかし、イエスは人々の間を通り抜けて立ち去られた。
Posted on 2022/01/21 Fri. 09:30 [edit]
category: 2022年(主日C年)
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