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福音のヒント

主日のミサの福音を分かち合うために

年間第13主日 (2022/6/26 ルカ9章51-62節)  

教会暦と聖書の流れ


 きょうの箇所は、ルカ福音書でイエスがエルサレムに向かう旅を始める箇所です。マルコ福音書ではイエスが旅に出ようとされたところ(マルコ10章17節)から、エルサレムに入る(11章11節)までの箇所はそれほど長くありませんが、ルカ福音書はきょうの箇所から19章44節までがこの旅の間の出来事とされています。ルカはこの大きな「旅の段落」に、マルコ福音書にはない数多くのエピソードやイエスの言葉を伝えています。
 ルカ福音書によれば、エルサレムへと向かうイエスの旅は、十字架に向かう旅であると同時に、「天」に向かう旅でもあります(51節)。その中でイエスに従う人々には、他者への寛大さと、自分自身への厳しさ(覚悟)が求められます。


福音のヒント


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  (1) イエスの時代、サマリア人とユダヤ人は対立していました。もともとは同じ民族でしたが、紀元前10世紀、ソロモン王の死後にイスラエルの王国は南北に分裂しました。北王国はサマリアに独自の聖所を置くようになり、エルサレムの神殿を中心とする南王国から宗教的にも分離してしまいました。さらに紀元前8世紀に北王国はアッシリア帝国に滅ぼされ、サマリアの人々はアッシリア人との混血になってしまったと言われています。この宗教間・民族間の対立という問題は、現代のわたしたちにも通じるものがあります。
 54節の弟子たちの言葉、「主よ、お望みなら、天から火を降らせて、彼らを焼き滅ぼしましょうか」は、かつて預言者エリヤが自分を捕らえに来た兵士たちを焼き滅ぼした故事に基づいています(列王記下1章)。弟子たちにはもちろんそんな力はありません。自分たちの恨みをイエスの力で晴らしてもらおうと考え、「主よ、そうしてください」と言っているようなものです。イエスはこれをはっきり拒否しています。エルサレムへの旅の最初に置かれたこのエピソードは、イエスの旅が軍事的な戦いの旅ではなく、神の愛を告げ、神の愛を生きる旅であることを表しています。

  (2) 57-58節は、このイエスの旅に同行するとはどういうことかを示しています。「人の子には枕するところもない」の「人の子」は、ここでは「わたしのような人間」の意味です。わたしたちの今の現実の中で、「巣穴のない、枕するところのない」というような状況があるでしょうか。
 59節「父を葬る」は、当時の考えでは人間として何よりも大切な義務でしたが、イエスはそれさえも許しません。「死んでいる者たちに、自分たちの死者を葬らせなさい」。ここで「自分たちの死者」は実際の死人のことですが、「死んでいる者」は「霊的な意味で死んでいる人」のことでしょう。イエスが指し示している「アッバ(お父さん)」である神とのつながりの中にあるいのちを生きていない人の意味です。

  (3) 列王記上19章20節で預言者エリヤが自分の弟子としてエリシャを召し出した物語(きょうの第一朗読)では、家族と別れのあいさつをすることが許されていますが、きょうの福音の62節のイエスの言葉は、家族へのいとまごいも許しません。「鋤(すき)」は畑をたがやすための農具です。イラストのように、牛やロバに引かせて土をたがやしていくものですが、通常、右手にムチを持ち、左手だけで操作するので、まっすぐ進むためには注意が必要です。「後ろを顧みる」ならば、たちまち曲がった畝(うね)ができてしまいます。
 父の埋葬や家族へのいとまごいは、一般的に言えば悪いはずのないことです。しかし、イエスの言葉は「何をおいても今すぐ従う」ことを要求しています。ルカ福音書の文脈の中でこの緊急性は、イエスがエルサレムに向かう最後の、命懸けの旅を始めることと関連していると言えるでしょう。葬儀の義務や家族へのあいさつが本当の問題なのでしょうか。むしろ、わたしたちに問われていることは、イエスの告げる「神の国」(60、62節)への招きをどこまで本気で受け取るか、ということではないでしょうか。

  (4) 「神の国」の「国」はギリシア語で「バシレイアbasileia」と言いますが、この言葉の元には「バシレウスbasileus=王」という言葉があります。「バシレイア」は本来、「王であること、王となること」を意味する言葉です。英語のkingに対する kingdomと同じだと考えたらよいでしょう。「王としての統治・支配」を意味することもあり、「王が王として支配している国=王国」の意味にもなります。「神が王であること、神が王となること」これがイエスの告げ知らせた福音(=良い知らせ)の中心でした。
 わたしたち現代人は、王がいなくても国は成り立つと考えますので、「神が王となる」と言われてもピンとこないかもしれません。しかし、人間の王の不正な支配によって苦しめられていたイエスの時代のパレスチナの人々にとって、「神が王となる」という神の国のメッセージはすべての不当な圧迫から自由になる「解放のメッセージ」だったのです。
 わたしたちは何によって支配され、圧迫され、不当に抑圧されているでしょうか。お金、市場経済、競争原理、欲望、暴力、エゴイズム・・・さらに専制政治や軍事力? わたしたちがほんとうの豊かないのちを生きることを妨げているすべてのものからの解放、それこそが「神の国」の表しているものなのです。

  (5) 「神の国」とは別の言葉で言えば、「神の愛がすべてにおいてすべてとなること」だと言ったらよいかもしれません。この「神の国」には、まだ来ていない(=いつか完成する)という面と、すでに来ている(=もう始まっている)という面があります。ルカ福音書にはイエスの次のような言葉が伝えられています。「わたしが神の指で悪霊を追い出しているのであれば、神の国はあなたたちのところに来ているのだ」(ルカ11章20節)。「神の国は、見える形では来ない。『ここにある』『あそこにある』と言えるものでもない。実に、神の国はあなたがたの間にあるのだ」(ルカ17章20-21節)。
 すでに始まっている神の国とは、わたしたちの間にある神の国とは、どのようなことでしょうか。




ダウンロードできます。
「福音のヒント(PDF)」
 ※集い用に、A4サイズ2ページで印刷できます。


聖書朗読箇所

第一朗読 列王記上19・16b、19-21


 16〔その日、主はエリヤに言われた。〕「アベル・メホラのシャファトの子エリシャに油を注ぎ、あなたに代わる預言者とせよ。」
 19エリヤはそこをたち、十二軛の牛を前に行かせて畑を耕しているシャファトの子エリシャに出会った。エリシャは、その十二番目の牛と共にいた。エリヤはそのそばを通り過ぎるとき、自分の外套を彼に投げかけた。20エリシャは牛を捨てて、エリヤの後を追い、「わたしの父、わたしの母に別れの接吻をさせてください。それからあなたに従います」と言った。エリヤは答えた。「行って来なさい。わたしがあなたに何をしたというのか」と。21エリシャはエリヤを残して帰ると、一軛の牛を取って屠り、牛の装具を燃やしてその肉を煮、人々に振る舞って食べさせた。それから彼は立ってエリヤに従い、彼に仕えた。


第二朗読 ガラテヤ5・1、13-18


 1〔皆さん、〕自由を得させるために、キリストはわたしたちを自由の身にしてくださったのです。だから、しっかりしなさい。奴隷の軛に二度とつながれてはなりません。
 13兄弟たち、あなたがたは、自由を得るために召し出されたのです。ただ、この自由を、肉に罪を犯させる機会とせずに、愛によって互いに仕えなさい。14律法全体は、「隣人を自分のように愛しなさい」という一句によって全うされるからです。15だが、互いにかみ合い、共食いしているのなら、互いに滅ぼされないように注意しなさい。
 16わたしが言いたいのは、こういうことです。霊の導きに従って歩みなさい。そうすれば、決して肉の欲望を満足させるようなことはありません。17肉の望むところは、霊に反し、霊の望むところは、肉に反するからです。肉と霊とが対立し合っているので、あなたがたは、自分のしたいと思うことができないのです。18しかし、霊に導かれているなら、あなたがたは、律法の下にはいません。


福音朗読 ルカ9・51-62


 51イエスは、天に上げられる時期が近づくと、エルサレムに向かう決意を固められた。52そして、先に使いの者を出された。彼らは行って、イエスのために準備しようと、サマリア人の村に入った。53しかし、村人はイエスを歓迎しなかった。イエスがエルサレムを目指して進んでおられたからである。54弟子のヤコブとヨハネはそれを見て、「主よ、お望みなら、天から火を降らせて、彼らを焼き滅ぼしましょうか」と言った。55イエスは振り向いて二人を戒められた。56そして、一行は別の村に行った。
 57一行が道を進んで行くと、イエスに対して、「あなたがおいでになる所なら、どこへでも従って参ります」と言う人がいた。58イエスは言われた。「狐には穴があり、空の鳥には巣がある。だが、人の子には枕する所もない。」59そして別の人に、「わたしに従いなさい」と言われたが、その人は、「主よ、まず、父を葬りに行かせてください」と言った。60イエスは言われた。「死んでいる者たちに、自分たちの死者を葬らせなさい。あなたは行って、神の国を言い広めなさい。」61また、別の人も言った。「主よ、あなたに従います。しかし、まず家族にいとまごいに行かせてください。」62イエスはその人に、「鋤に手をかけてから後ろを顧みる者は、神の国にふさわしくない」と言われた。


Posted on 2022/06/17 Fri. 09:08 [edit]

category: 2022年(主日C年)

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