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福音のヒント

主日のミサの福音を分かち合うために

年間第16主日 (2022/7/17 ルカ10章38-42節)  


教会暦と聖書の流れ


 先週の「善いサマリア人のたとえ」同様、エルサレムへ向かう旅の段落に置かれた、ルカ福音書だけが伝える物語です。この旅は十字架を経て天に向かう旅であると同時に、神の国について語り続ける旅でした。ですからきょうの箇所も、福音書の文脈の中では、「イエスの語る神の国の言葉を聞く」というテーマで受け取るとよいかもしれません。
 伝統的にはよく、マリアを「観想型人間」、マルタを「活動型人間」の典型と見るような読み方がされてきました。それは「観想型のほうが優れている」という見方にもつながってきます。「どうせわたしはマルタだからダメよね」という嘆きをよく耳にします。しかし、もっといろいろな読み方ができるのではないでしょうか。今回はこの短い物語のいろいろな味わい方を紹介します。


福音のヒント


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    (1) マルタのようにもてなすことよりも、マリアのように主の言葉を聞くことのほうが大切だとイエスは考えているのでしょうか。もちろん、イエスはご馳走を期待しているのではなく、自分の言葉を聞いてほしいと思っていたことでしょう。しかし、イエスはマルタの奉仕そのものを否定しているのではないということも大切です。「もてなす」はギリシア語で「ディアコネオーdiakoneo」ですが、この言葉は「仕える、奉仕する」とも訳される言葉で、イエスとイエスの弟子たちの生き方の中心にあるものを表す言葉です。マルコ10章43-45節「あなたがたの中で偉くなりたい者は、皆に仕える者になり、いちばん上になりたい者は、すべての人の僕(しもべ)になりなさい。人の子は仕えられるためではなく仕えるために、また、多くの人の身代金として自分の命を献げるために来たのである」。また、「マルタ、マルタ」というイエスの呼びかけも親しみを込めた呼びかけです(ルカ22章31節の「シモン、シモン」のように!)。
 もし、マルタの奉仕自体が問題でないとするならば、問題は彼女がイエスに向かって不平不満をいう態度、あるいは妹を評価しない彼女の姿勢なのではないでしょうか。

    (2) 当時の社会では、男女の役割には明確な区別がありました。宗教的な勤めは第一に男性がすべきことであり、女性には聖書を学んだり、礼拝するという義務がありませんでした。女性は自分の時間の主人とは見なされなかったからです。「役割分担」と言うよりも女性はまったく従属的な位置に置かれ、神に仕える男性に奉仕することが要求されたのです。このようなことを考えると、マルタのしていたことは当時の女性として当然の役割を果たしていたということになるでしょう。一方のマリアのように家事もせずに、先生の話を聞くというのは女性としては普通でないことになります。マルタの不満は当時の社会の常識からすれば当然とも言えます。ここでイエスはそのような男女の役割分担を否定して、マリアの態度を弁護しています。それは「男も女も神の言葉を聞いていいのだ。それはだれにでもできることであり、それがもっとも大切なことなのだ」という画期的な宣言だと言えるのではないでしょうか。

    (3) マルタは当時の常識からマリアを非難しているだけではないでしょう。マルタの心の中には、一方で、「自分も本当はイエスの話を聞きたいのに、女だから仕方なく家事をしている」という思いがあり、他方、「でも家事なら誰にも負けない。わたしは働き者で、マリアは怠け者だ」という思いもあったのでしょう。「あなたは多くのことに思い悩み、心を乱している」というイエスの言葉は、料理のことだけでなく、このような優越感と劣等感の狭間(はざま)で悶々(もんもん)としているマルタの心の状態を指摘しているのではないでしょうか。イエスの言葉はマルタにとって耳の痛いものであったかもしれません。しかし、固定化された男女の役割分担に縛られ、人と人との比較の中でしか自分や姉妹を見ることのできなかったマルタにとって、そこから解放されるための本当の「福音」だったのではないでしょうか。それはついつい他人との比較の中で自分を見てしまうわたしたちにとっても解放のメッセージなのではないでしょうか。

  (4) マルタとマリアという姉妹は、ヨハネ福音書にも登場します。物語自体も場所も違いますが、この姉妹の性格に関しては不思議なほど共通するところがあります。ヨハネ11章20節でも「マルタは、イエスが来られたと聞いて、迎えに行ったが、マリアは家の中に座っていた」とあります。マルタはそこでも不平不満とも取れるような言葉をイエスに向けて発しました。「主よ、もしここにいてくださいましたら、わたしの兄弟は死ななかったでしょうに」(21節)。マルタはこのように率直にイエスに向かって自分の思いをぶつけていますが、イエスはそれに答えてくれます。このことはわたしたちの祈りについての大きなヒントになるかもしれません。
 ルカ10章40節のマルタの言葉のように、「主よ、こんなに変なことが起こっているのに、あなたはなんともお思いになりませんか?」と言いたくなることがわたしたちにもあるでしょう。ヨハネ11章21節のように「主よ、もしあなたがここにいてくださったら、こんなにひどいことは起こらなかったでしょうに」と訴えたいことだってあるかもしれません。 マルタはそういう思いをストレートにイエスにぶつけるのです。そして、イエスからの答えをいただきます。わたしたちの祈りがあまりに形式的なきれい事になっているとしたら、このマルタの祈りに学んでみてもよいのではないでしょうか。

  (5) 結局のところ、マルタもイエスの言葉を聞いたのです。それどころか、マリアが聞いたはずの多くの言葉ではなく、マルタの聞いた短い言葉が、今のわたしたちに伝えられています。「必要なことはただ一つだけである。」この言葉はマルタにとっては、さまざまな思いから自分を解放してくれる福音だったのでしょう。きょうの福音は、わたしたちがどんな思いに縛られているか、わたしたちにほんとうに必要なことはなんなのか、と問いかけてきます。それは、今のわたしたちにとっても福音だと言えないでしょうか。




ダウンロードできます
「福音のヒント(PDF)」
 ※集い用に、A4サイズ2ページで印刷できます。


聖書朗読箇所

第一朗読 創世記18・1-10a


 1〔その日、〕主はマムレの樫の木の所でアブラハムに現れた。暑い真昼に、アブラハムは天幕の入り口に座っていた。2目を上げて見ると、三人の人が彼に向かって立っていた。アブラハムはすぐに天幕の入り口から走り出て迎え、地にひれ伏して、3言った。
 「お客様、よろしければ、どうか、僕のもとを通り過ぎないでください。4水を少々持って来させますから、足を洗って、木陰でどうぞひと休みなさってください。5何か召し上がるものを調えますので、疲れをいやしてから、お出かけください。せっかく、僕の所の近くをお通りになったのですから。」
 その人たちは言った。
 「では、お言葉どおりにしましょう。」
 6アブラハムは急いで天幕に戻り、サラのところに来て言った。
 「早く、上等の小麦粉を三セアほどこねて、パン菓子をこしらえなさい。」
 7アブラハムは牛の群れのところへ走って行き、柔らかくておいしそうな子牛を選び、召し使いに渡し、急いで料理させた。8アブラハムは、凝乳、乳、出来立ての子牛の料理などを運び、彼らの前に並べた。そして、彼らが木陰で食事をしている間、そばに立って給仕をした。
 9彼らはアブラハムに尋ねた。
 「あなたの妻のサラはどこにいますか。」
 「はい、天幕の中におります」とアブラハムが答えると、10彼らの一人が言った。
 「わたしは来年の今ごろ、必ずここにまた来ますが、そのころには、あなたの妻のサラに男の子が生まれているでしょう。」


第二朗読 コロサイ1・24-28


 24〔皆さん、〕今やわたしは、あなたがたのために苦しむことを喜びとし、キリストの体である教会のために、キリストの苦しみの欠けたところを身をもって満たしています。25神は御言葉をあなたがたに余すところなく伝えるという務めをわたしにお与えになり、この務めのために、わたしは教会に仕える者となりました。26世の初めから代々にわたって隠されていた、秘められた計画が、今や、神の聖なる者たちに明らかにされたのです。27この秘められた計画が異邦人にとってどれほど栄光に満ちたものであるかを、神は彼らに知らせようとされました。その計画とは、あなたがたの内におられるキリスト、栄光の希望です。28このキリストを、わたしたちは宣べ伝えており、すべての人がキリストに結ばれて完全な者となるように、知恵を尽くしてすべての人を諭し、教えています。


福音朗読 ルカ10・38-42


 38〔そのとき、〕イエスはある村にお入りになった。すると、マルタという女が、イエスを家に迎え入れた。39彼女にはマリアという姉妹がいた。マリアは主の足もとに座って、その話に聞き入っていた。40マルタは、いろいろのもてなしのためせわしく立ち働いていたが、そばに近寄って言った。「主よ、わたしの姉妹はわたしだけにもてなしをさせていますが、何ともお思いになりませんか。手伝ってくれるようにおっしゃってください。」41主はお答えになった。「マルタ、マルタ、あなたは多くのことに思い悩み、心を乱している。42しかし、必要なことはただ一つだけである。マリアは良い方を選んだ。それを取り上げてはならない。」

Posted on 2022/07/08 Fri. 09:00 [edit]

category: 2022年(主日C年)

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